『ジャズ・スタンダード・アナライズ』楽曲分析と作曲技法

カテゴリー

楽曲分析の力がつく名著です

このところ仕事が忙しく、ろくにピアノを弾けないので、空いた時間を利用して理論系の本を読んだりしています。
とても良かったのがこちら。

黒本にのっているようなジャズのスタンダード・ナンバー22曲が<なぜ名曲なのか?>を、コードのアナライズとメロディーのアナライズを通して紐解いてゆくというもの。
掲載されている曲は以下。どれもジャズ・ファンにはお馴染みの名曲ばかりです。唯一、「モナ・リザ」がちょっとマイナーかなと思いますが、ナット・キング・コールが歌っているからみんな知ってるのかな。

One Note Samba
Mona Lisa
My One And Only Love
Blue Moon
※先日ブルームーンがありましたね。私は疲れて寝てましたが。
Autumn Leaves
Fly Me To The Moon
The Days Of Wine And Roses
Black Orpheus
I’ll Close My Eyes
‘Round Midnight
In A Sentimental Mood
My Funny Valentine
Here’s That Rainy Day
What’s New?
Night And Day
Wave
The Girl From Ipanema
A Child Is Born
Naima
Giant Steps
The Shadow Of Your Smile
All The Things You Are

各曲の解説の流れは、コード分析とメロディ分析に大きく分かれ(ちゃんと譜面も掲載されています)、コードに特徴のあるものはコードの分析に、メロディーに特徴のある曲はメロディーの分析に比重が置かれています。

本の紙面

この本のいいところ

アナライズの力がつく

正直、この本を読み進めるのはなかなか骨が折れます。コードとメロディーの楽曲分析を行うわけですから、音楽理論の基本的な知識がなければまず読めない内容なのですが、知識を持っていても、実践であまり使って来なかった人(つまり私)には結構しんどいです。
楽曲の中で出てくる、どう解釈すればいいのかわからないコードって、「まぁこういうこともあるか」と、お茶を濁すことが多いのですが、この本はそこでちゃんと踏みとどまって、考えられる解釈を複数提示します。
この本を読み終えると、アナライズの力がかなりつくと思います。サブドミマイナーとかが、すぐに見当つくようになる。これは大きな収穫でした。

作曲のテクニックをちょっとだけ学べる

この本の中で繰り返し述べられているのは、「名曲は偶然に生まれたのではなく、作曲家が技法を駆使し「名曲」として仕上げられているのだ」ということ。
ビートルズなんかを聴いていると、作曲って、なんだかキノコ狩りみたいに、その辺に転がっている曲を拾ってきてそのまんま歌っているような気がしてきますが、この本を読むと、曲というのは自然の産物ではなく、あくまでも人工的に構築されているのだということがよくわかります。「こういう造りになっているからこうでない場合よりも聴いた時により感動するのだ」という解説が非常に説得力あります。
掲載曲でも作曲の定番技法が使われていることがわかって、「やっぱり人間が作っているんだなぁ」と、当たり前のことなのですが改めて気付かされます。面白いです。

楽曲のテキスト分析を楽しめる

文学の世界では(突然文学の話が出てきますが学生時代文学部だったもので)「テキスト論的な解釈」という考え方があって、いわゆる文学研究と言われてイメージする「作家論」(夏目漱石の生い立ちや経歴が彼の作品にどんな影響を与えているか、など)が60年代で閉幕し、「作家がどんな人生を送ったか、どんな思想を持っていたかなんて関係ねぇ、作品は読書のもんだ」という読み方が普及したのですが、この本の作者が楽曲に対して行なっているのはまさにそれ。曲のタイトルと絡めながら、曲の物語を作り上げています。「曲の物語」と言われてもどんなものかイメージしづらいと思いますが、これはなかなか面白かった。ぜひ実際に読んで、「確かにそう考えられるよね」と膝を打ってみたり、「いや俺はそうは思わへんで」と首を傾げてみたり、あれこれ考えてみてください。

本のサイズが小さく、どこでも読める

楽譜の掲載されている音楽の本ってだいたいA4判なので、電車に乗りながらだと読みづらいのですが(読むぶんにはいいんだけど「俺音楽をやってるんだぜ」アピールしているみたいで恥ずかしい)、この本は普通の書籍のサイズなので読みやすいです。譜面が小さいので、実際に楽器を鳴らすのには不向きですが、この本はむしろ頭の中でイメージしながら読んでいくものなので支障はないと思います。

この本の難点

音楽理論を知らないとお手上げ

先にも書きましたが、この本は基本的な音楽理論の知識が必須です。
冒頭に少し解説ありますが、本書を読むのにはあまり関係ない内容だと思います。
譜面が読める、コードとスケールの構成音を知っている、コードの機能(ドミナント・モーション、裏コード、サブドミマイナー)あたりまでの知識が必要です。
理論を知っていても、結構根気がいると思います。

この本を出しているシンコーミュージックさんって、学術書と一般書の間くらいのところを狙った書籍を出していて、音楽が好きな人にはおすすめです。

音楽知識の紹介順序がバラバラ

前の曲で登場した知識が次の曲で解説されたりしているため、読みづらくなっています。
本の頭で、この本に出てくる知識をざっとでもいいから紹介してくれたら読みやすいと思うし、身につきやすいと思うんですが。
曲を解析しながら知っていくことを優先したんでしょうか。ならせめてそれが登場した時点で解説してほしいよ。

作者の深読みが過ぎる

利点として楽曲のテキスト分析の面白さをあげましたが、いささか深読みしすぎなんじゃないかと首をかしげるものも中にはあります。
特に一曲目の「One note samba」がそうで、まぁそういう風に考えることもできるし、作者さん的には自信作だから頭に持って来たのだろうけど、あまりにロマンチックすぎて少し引きました。冒頭一曲目がそうだったので、これが残り21曲続くのかと思い、しばらく読むのをやめていたのですが、勇気を出して読んでみると(?)他はそれほどでもありませんでした。
「まぁ、こう考える人もいるのね」と考えればいいでしょう。

ジャズを分析的に聴きたい方にはとてもおすすめ

というわけで、三つの難点も書かせていただきましたが、全体として非常に勉強になる一冊でした。
これを読んでから譜面を読むと、コードの機能が以前よりすんなり理解できるようになりましたし、音楽を聴いていても、「あ、これはハイポイントを後ろにずらして盛り上げているんだな」とか、作曲者の意図に気づくようになりました。
音楽をただ聴くだけじゃなくて、「なぜこうなっていなければいけないのか」、分析的に聴きたい方、それから楽器をやられる方にはとてもおすすめです。

ライフワークはジャズとランニングと横浜ベイスターズ。無駄に絶対音感あり。ピアノを弾きます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください